淑徳大学教授
西尾孝司先生

淑徳大学総合福祉学部教授の西尾孝司先生にインタビューしました(広報誌 TOKIWA 2023 AUTUMN vol.213より)。

「灯台のような施設」― ときわ園への期待

― 西尾先生は大学で福祉や介護を研究しておられますが、どのようなきっかけでこのお仕事をするようになったのでしょうか。

老年期の生活を豊かにする一助になりたいと考えて日本福祉大学に進学し、卒業後は特養に就職しました。特養で実習指導を担当するようになり、実習生が成長していく様子を見て、後進の教育に関わりたいと思うようになりました。また、介護福祉士養成教育の内容を変革していきたいという思いもあり、介護福祉士の養成校に転職しました。その後、もっと勉強する必要を感じて大学院に進学し、修士課程を修了した後は大学で働いてきました。

― これまでの研究成果の幾つかを紹介していただけますか。

私は、主に「意味」や「介護福祉援助における価値」を巡って考察を重ねてきています。「意味」を巡る考察では、たとえば、他者がどのような意味を持ってある人の意識に現れるのかを検討し、認知症の人が抱える苦しみを「世界理解の齟齬から生じている」と考える立場を示してきました。また、生活行為の意味(たとえば、住居の意味)も検討してきました。

「価値」を巡っては、「自立」や「自立支援」は介護福祉の中核的な実践価値として採用できないという立場を示してきました。重度認知症の人の援助やターミナルケアにおいても自立や自立支援を目指すのでしょうか。私は、不適切だと考えます。

介護福祉の中核的な実践価値は、最も深刻な要介護状態にある人に適用できるものであるべきだと考えます。現在は「健康で文化的な日常生活の回復・再構築」と「存在や人生の意味の発見・回復」だと考えています。

授業風景

― どのような苦労がこれまでありましたか。

大学教員として最も苦労したのは、哲学的思考能力を錬成することです。極めて自然に納得してしまっている事柄を敢えて根源的に問い直し、考え直していく力を身につけたいと思ってきました。しかし、先達の業績が私の手には負えないほどに高度で、現在も四苦八苦しています。

― どのような時にこの仕事をしていてよかったと思われますか。

教員としては、意欲的に学ぼうとしている学生と出会うととても楽しいですし、卒業生が元気に働いている姿に接すると「よかったなぁ」と思います。

福祉職としては、多くの利用者と出会い、ほんの一部ですがその方の人生を一緒に歩けたことだと思います。今も私の中には多数の利用者さんが生きていてくれます。

― ときわ園にはどのような魅力があるか教えていただけますか。

ときわ園は、場の雰囲気がとても柔らかいと感じます。これはときわ園で生活していく利用者の皆さんにとって非常に喜ばしいことです。また、働く職員にとっても喜ばしいことです。数字や形に表れるものでありませんが、大きな魅力だと思います。

趣味は山歩き

― ときわ園には今後どんなことを期待しますか。

「灯台のような施設」を期待したいと思います。高齢者介護を巡っては制度改正が繰り返されています。利用者の状態像も変化しています。利用者や家族が期待する内容も変わっていくでしょう。そのような中で、あるべき特養の方向性を示し、他の施設の指針となるような施設となることを期待します。容易なことではありませんが、志は星に繋ぎたいものです。福祉の実践者(実践組織)として、一人ひとりの利用者にとって「良い」とはどういうことなのかを問い続け、実現に取り組み、発信をしていただけるとありがたいと思っています。

西尾先生、この度はインタビューに応じてくださりありがとうございました。